コラム「もてなし上手」バックナンバー

<2018(平成30年)連載分>


第95回:平成30年12月1日掲載

お客様を守るおもてなし

~想いのバトンリレー~

 「この先のドラッグストアは、午後時まで開いていますのでまだ間に合うと思います」。携帯の画面を見せながら教えてくれたのは、たまたま立ち寄ったコンビニのスタッフでした。クライアント企業の方によると、街でも評判のスタッフということでした。 

 ある日、私は出張先のホテルで朝から腰に違和感がありました。前日の東京は冷たい雨が降り、チェックインした部屋はひんやりと寒く、室内の空調温度を上げてもなかなか暖かくなりません。29度まで上げても同じです。表示をよく見ると冷房表示でした。

 設定を切り替えようとしても駄目でした。フロントに連絡すると「まだ、暖房設定に出来ません」と言われ、仕方なくそのまま寝ることにしました。その結果、翌朝には身体が冷えた影響もあり、腰が痛くなりました。

 朝の新幹線で移動してスタッフと合流し、クライアント企業の車に乗り込んでからも、痛みはひどくなる一方でした。その日の業務を終えて、夜遅くにホテルまで送ってもらい、早めに就寝することにしました。

 すると、その1時間ほどあとに部屋のドアがノックされ、スタッフが「これを使ってみてください」と湿布薬を買ってきてくれたのです。 

 私が部屋に入った後、彼はクライアント企業の方にその湿布薬を買うためにコンビニまで送ってもらったそうです。そのとき、コンビニスタッフの素晴らしいおもてなし行動に出逢ったというのです。

 ただ、そのコンビニには湿布薬はありませんでした。困っていると「ちょっとお待ちください」「これで代用できないでしょうか」と、保冷剤をいくつか持って来てくれたそうです。「どうだろうか」とスタッフがそれを手にしながら考えていると、「もう少しいい物がないか探して来ますね」、と店の奥に戻り携帯電話を手に出てきて、掛けてくれた声が文頭の言葉でした。 

 「西川さん、すごくないですか、この接客」と、翌朝ニコニコとその話をしてくれるスタッフを見て、本当に感動しました。 

 お客様の要望は叶えてあげたい。だから、「できない」とは言わない。よくそんな言葉を聞きます。しかし、現実に提案される内容は、あくまで自社のビジネスの中でのことが多いものです。ところが、今回のように競合ともいえるお店を、お客様のためにわざわざ手間をかけて調べて教えてくれる姿に、スタッフは驚いたのです。

 湿布薬があれば少しは楽になるかもしれないという想い。お客様に最良のものを手にしてもらいたいという想い。こうした想いのバトンリレーこそが、感動を生むおもてなしなのではないでしょうか。 



第94回:平成30年11月1日掲載

プラスの言葉のチカラ

~「淹れ立てのコーヒー」~

 航空会社の研修中に、オブザーバー参加のスタッフから「ちょうど今、話し合ってもらっている件で、お客様の声がメールで入りました」と、報告されました。それは「淹れ立てのおいしいコーヒーをすぐにお持ちいたしますね」というキャビンアテンダントの声を「うれしく思いました」という内容でした。

 これは、ドリンクサービスの途中でコーヒーがなくなったときに、研修に参加したCAがお客さまに発した言葉です。今までだと、「申し訳ございません。あいにく今、コーヒーを切らせてしまいましたので、しばらくお待ちいただけますか」というのが通常でした。

 研修で伝えたことは、何気なく使っているマイナスイメージを持つ言葉に気を付けようというものでした。この場合は、「申し訳ございません」「しばらくお待ちいただけますか」が、それにあたります。

 何にでも、「申し訳ございません」と謝罪を言えばよいのではない。「しばらく」という言葉を添えたとしてもお待ちいただくことは変わらない。このマイナスのイメージをお客様に残す言葉を「プラスの言葉」で伝えよう、と研修をしました。

 お客様を幸せな気持ちにするためには、コーヒーがちょうど切れてしまったという事実は変えられなくても、それを伝える言葉でお客様の気分を変えることはできるのです。その1つの成果として、お客様がその言葉に感動し、「いただくコーヒーが楽しみになった」と本社に手紙をくださったのです。

 この半年くらい、機内で耳にする「お客様が指定されているお座席に着席していることを確認してから出発します」というフレーズに、非常に違和感を覚えました。「今のアナウンスはおかしくないですか」と何度か聞きましたが「申し訳ありません」と返すだけで修正はありません。

 しかし2度だけ、これが正しいのではという方がいました。「着席されていることを確認して・・・」。

 マニュアルを覚えるだけでも新入社員にとっては大変な仕事です。一生懸命に取り組む姿勢は尊いものですが、マニュアルの言葉だけではいけません。伝えたいことが相手に伝わることが大切であり、そのためには違和感なく受け止めてもらえる言葉を選ばなければならないのです。

 マニュアルで、ほどほどに実行できる人を育てようと企業側が考えてしまうと、「考動」できないスタッフを創り出してしまいます。考えて行動する思考を持ってもらうには、普段から何気なく使う言葉に、関心を寄せるクセをつけさせることが大切です。美しい日本語も大切ですが、プラスの言葉を使えるような研修を実行してください。



第93回:平成30年10月1日掲載

お客様に寄り添う言葉でおもてなし

~同じ行動を取るにしても~

 仕事で、2軒のホテルに初めて宿泊をしました。2軒ともチェックインの日は天候が悪く激しい雨でした。1軒目では、業務を終えて激しい横殴りの雨のなか、ホテルに向かいました。到着するとズボンはびしょ濡れでした。

 フロントでチェックインしようとすると、「お部屋の準備はできていますが、ご予約のプランが、19時半以降のチェックインですので、それまでお待ちいただけますか」と言われました。時間は19時前なので、少し待ちましたが、寒気もするので、もう一度「部屋に入って休みたい」と申し出ると、「ではアーリーチェックインですね」と言われ、追加料金を支払ってチェックインできました。

 2軒目のホテルでは、予定より早く業務が終わり、正午過ぎのチェックインでは、早すぎるとは思いましたが、雨も降っていたので、ホテルに向かいました。すると、「今日ご利用いただく予定のお部屋は、掃除が既に終わって準備はできていますのでご案内いたします」と迎えられました。

 ビジネス的に考えれば、1軒目は、その日利益を数千円プラスできました。2軒目は、料金をもらわずにお客様を部屋に通してしまいました。しかも、次の機会にも、お客様が同様に早く到着して、別のスタッフが追加費用をもらう選択をしたら「前回とは違う」というクレームになるかもしれません。ルールは守らなければトラブルの元になります。

 では、ビジネスの本質で考えてみましょう。私は、1軒目には今後泊まることはないでしょう。2軒目には「得をした」よりも「ホッとした」という気持ちを強く持ったのです。すでに次の予約も入れました。もちろん、「また、早く行こう」などという気持ちはありません。すべてのお客様が同様の行動をとるかは分かりませんが、「またここに泊まりたい」という気持ちになってもらうことが創客ビジネスです。

 以前に、このホテルと似た体験をしたことがあります。そのホテルでは、「今回に限って」という言葉が付いていました。ありがたい気持ちにはなりましたが、「また来たい」という気持ちにはなりませんでした。

 同じ行動を取るとしても、次のリスクヘッジを考えて発した言葉が、その行動の価値を落としているのかもしれません。気持ちよくサービスを受けていただくことが大切です。  

 恩着せがましさを、お客様が感じるマイナスイメージの言葉ではなく、「掃除がすでに終わって準備ができておりますので」といった言葉に「雨の中ありがとうございます」といった言葉が加われば、さらに「ここにして良かった」という気持ちを生むおもてなしの言葉になるではないでしょうか。



第92回:平成30年9月1日掲載

お客様の声を活かしておもてなし

~目的をしっかりと検討して~

 「お客様の声を聞く」ということは、サービス業にはとても大切なことです。しかし、そのやり方をみると、不十分だと言わざるを得ません。

 アンケートを取っている施設は多くありますが、そのアンケートは十分に活用できていません。それは、アンケートを始めた理由にあります。他館もやっているからと、多くは他館のアンケートを参考にしながら作られています。

 アンケートの取り方も「よろしくお願いします」と手渡されることはほとんどなく、部屋に置かれているだけです。これでは、わざわざ書く人は少ないでしょう。

 そこで、アンケート回答者を増やすために、プレゼントやポイント付与があったりします。

 より多くの声を聞くことは大切ですが、アンケートを集めることが目的になってしまってはいけません。アンケートは、なぜするのか、何に使うのか、という目的をしっかりと検討してから導入すべきものです。

 目的の1つは、準備したサービスでお客様が満足されたのかどうかのチェックです。お客様の声から、現状認識と改善を加えていくツールとして大切なものです。毎日顔晴っているスタッフたちのやりがいにもつながるでしょう。

 また、アンケート内容をホームページなどで公開すれば、今後利用を検討される人たちの参考にもなります。しかし、これだけでは、わざわざ大切な時間を使って書いたお客様のメリットにはなりません。アンケートを回答されたお客様には、もう1つの機会を捉えて、お客様の声を聞くことが必要です。

 それは事前の問い合わせや予約時です。アンケートはあくまで利用体験をした人の声です。しかし、これから利用する人の声を聞くことで、そのお客様の満足度を個別に高めることができ、リピーターを能動的に創り出して行く戦略としても非常に大切です。これを実施している企業の満足度は非常に高く、かつリピーターも多いのです。

 「どの様な目的で利用するのか」「期待していることは何か」など事前に分かれば、最幸のおもてなしの準備ができます。真のおもてなしとは、そのかけた手間や時間なのです。

 アンケートに回答していただいたお客様に返事を出すのも大切ですが、その時間を次の確約をもらえるようなサービスに使うことが効率的です。お客様の声を事前に聞き、現場で最幸のおもてなし準備をし、その実行で感動を提供する。さらに、その手間をかけたおもてなしが十分だったのかをアンケートで伺い、次のサービスの向上を目指す。お客様の声を活かすとは、この循環を創ることなのです。

 



第91回:平成30年8月1日掲載

「きっかけ」をつくらなければ

~偶然を数%でも必然に~

 その宿に泊まりたいから、次の旅はここにしよう。そんなうれしいことを考えてもらえる宿は、残念ながらまだまだ少ないように思います。次の休みはこの辺りに旅をしようと目的地を決めて、その周辺の宿を探すのがふつうです。しかし、宿は一生懸命に自らのハード面や食事の違いを伝えようとするため、選んでもらえる対象者が限られてきます。

 先日、「旅を売る宿」と題したセミナーを開催しました。まずは、地元に来てもらえるお客様づくりから始めようと提案するものです。宿のホームページを見ると、周辺観光地情報は出ていますが、内容は旅先をすでに決めた人が見る情報に過ぎず、その地に行こうという「きっかけ」にはなっていません。

 それは本来、観光行政や観光協会などの仕事かもしれませんが、宿も地元に来てもらうお客様を創客するための「旅づくり」に取り組まなければならないと強く考えています。

 もうひとつ、その宿に泊まりたいからそこに行くお客様を創造する術があります。それが「人」です。おもてなしです。

 ただ、単に滞在の不満を失くし、満足してもらうためだけのおもてなしでは足りません。それは、お客様にいただいた奇跡の出逢いを、次の必然に変える取り組みが真のおもてなし行動です。

 先日、「その方に逢いたい」と思い、宿泊した宿があります。宮城県にある「ホテル蔵王メッツ」がそのホテルです。オーナーシェフの佐々木さんは、おもてなしセミナー仙台に皆勤賞でご参加いただいている方です。

 その仕事場に伺いたくて、ようやく訪問が叶いました。そこで人気の宿の秘密を見たのです。私が行くということで、朝から山に入って、出はじめの珍しいきのこを1時間以上も歩いて探して下さったそうです。コース料理の途中で、きのこの話をしながら各テーブルを回っておられました。

 もちろん「〇〇さん、今日はご来館いただきありがとうございます」とお客様の名前を呼びながら、名刺も渡していました。お客様の大切な時間だからと、接点を持たずにお客様を帰していたら、次のお客様の滞在は偶然の域を出ません。

 仕事はその偶然を数%でも必然に近づけることです。そのために、お客様との会話も積極的に持つことを重視されています。結果、たまたま来た方が次の予約をして帰るという奇跡を創り出しています。そのときには、新しいお客様を連れて来てくれるのです。

 「人」が最大の商品となり、「またその人に逢いたい」。あるいは、「口コミで聞いたその人に逢いたいから行ってみたい」、という「きっかけ」を創造することが、宿の営業を変えるのです。



第90回:平成30年7月1日掲載

無駄が効率的な創客を実現する

~「きっと喜んでくださる」~

 打ち合わせのあと、その方々との楽しい懇親会が終わりました。出張続きのうえ、お客様と食事をする機会も多くなり、少し疲れていました。ホテルで早めに休もうと思っていたのですが、そのホテルの最上階に、私の大好きなお店が入っており、この数カ月間、行っていないことが何となく気になりました。

 部屋に入ったら出るのが億劫になると思い、ホテルに到着後すぐにレストランに向かいました。スタッフが私の顔を見るなり、「西川さん、お帰りなさい」と、温かい言葉で迎えてくれるレストランです。

 「カウンターでコーヒー一杯だけいただきます」と声をかけると、すぐに案内してくれました。カウンター席には「西川さん、お帰りなさいませ。仙台出張お疲れ様でした。今夜もゆっくりとお寛ぎいただけますように」というメッセージカードが、ランプの横にそっと置かれていたのです。

 私が宿泊することは、ホテルからレストランに連絡が入っていたかもしれませんが、夜遅いチェックインが多かったので、立ち寄ることは今までもそう多くありません。まして、今回は久しぶりで夜も遅く、「行きます」との連絡もしていません。席が空いていなければ顔だけ出して、部屋に入ろうと思っていたのです。

 そんな私を、待っていてくれていたのが、そのメッセージカードでした。思わず言葉に詰まってしまいました。「こんなことをされたら、また来たくなる」。それがレストランカシータのおもてなしなのです。

 連絡して行けば、そのメッセージカードはいつもありました。ただ、今回は突然の思い付き行動です。いつ来ても対応できるメッセージを準備していたのか。いいえ、そのメッセージは明らかに、その日だから使えるものでした。

 では、「今日は来るかも」と偶然に思い付いて用意したのか。その答えが頭に浮かんだとき、つい涙を流してしまいました。きっといつも宿泊予約した日には、こうしてメッセージカードが用意されていたのではないだろうか。毎回待ち人来ずで、無駄になることの方が多いかもしれない。でも来られたときにはきっと喜んでくださるだろう。その瞬間のために多くの無駄な時間を使う。ここにおもてなしの極意があります。

 ビジネスの目的は、創客です。1つの感動が創客につながるとしたら、これほど効率的な営業はありません。スタッフも楽しみながら、お客様が感動されるその風景を想像しながら、メッセージを創ってくれたに違いありません。「わぉ!」と、奥のテーブルから声が聞こえました。またリピーターがこの瞬間に生まれたのでしょう。

 



第89回:平成30年6月1日掲載

マニュアル行動ではお客様を幸せにはできない

~おもてなし行動の目的~

 先日、ニュースをみて、笑いながらも考えさせられることがありました。タイで中国人観光客に花輪を渡して、笑顔で写真を撮るタイ人女性のサービスが問題視されていたのです。結局、彼女は謝罪してアルバイトを辞めることになったということでした。

 その映像をみて「確かにこれはないな」と思いましたが、果たして彼女だけが悪かったのでしょうか。彼女に仕事の目的は、正しく伝えられていたのだろうか、と感じたのです。「笑顔でお客様と写真を撮る」ということしか伝えられていなければ、逆に彼女は素晴らしい仕事をしていたことになります。

 実は、日本のサービス業でも同じようなことが起こっています。機内では最幸の笑顔で仕事をするCAたちも、ターミナル内ですれ違うときにその笑顔はありません。ホテルでも、目の前にお客様がいるときの笑顔が、お客様と離れた瞬間に厳しい顔になるスタッフを何度も見てきました。

 ある日、かなり激しい雨が降っていたとき、タクシーを待つ長い行列に断念して、宿泊予定のホテルまで傘を差して、キャリーバッグを引きながら歩いていったのです。そこには、笑顔で迎えてくれるホテルスタッフがいました。いつものように、「お荷物お預かりします」と笑顔でフロントまで運び、チェックイン手続きのときには、「お疲れ様でした」と、おしぼりまで出してくれたのです。手続きが終わると客室まで案内しながら荷物を運んでくれました。

 彼らには、研修を受けて磨き込んできた身のこなしと笑顔、そして言葉遣いがあります。素晴らしいホテルのスタッフたちです。

 ただ、客室係が部屋を出たあとに、仕事をするために雨に濡れたキャリーバッグをハンカチで拭いて、PCを取り出すお客様の存在には、まったく気付いてくれないのです。いや、気付いたとしても、教えられた業務以外の行動を起こすことができないのかもしれません。本当に悲しくなってしまう瞬間です。

 これまで、たくさんのホテルスタッフと出逢いましたが、多くのホテルで、毎回繰り返される行動で、特別不満を感じていたわけではありません。ところが、先日宿泊をしたビジネスホテルでは、雨に濡れたカバンに気付き、「拭かせていただいてもよろしいですか」とタオルを手にした別のスタッフがフロントから出てきてくれたのです。

 この2つのホテルスタッフの行動の違いは、どこから生み出されるのでしょうか。任された仕事に真剣に向き合うスタッフの気持ちは同じでしょうが、実行されるおもてなし行動の目的が違うのです。教えられたことを完璧に実行するだけでは、お客様を幸せにはできないのです。



第88回:平成30年5月1日掲載

マニュアル行動よりお客様に寄り添う想い

~業界の大きな問題点~

 数ヶ月前に予約したそのホテルは、予約時決済と変更不可の条件が付いていました。泊りたいホテルでしたので、連泊で予約をしてその日を楽しみに迎えたのです。しかし、ホテルに到着してから翌朝までの対応に不快さを感じて、1泊のみで翌朝にはチェックアウトしました。

 そのときフロントスタッフに、「アーリーチェックアウトですね」と笑顔で対応され、思わず苦笑いをしてしまいました。マニュアル行動としては、素晴らしい笑顔の対応だったかもしれませんが、決して安くはないラグジュアリーホテルの対応としては、合格点とはいえません。

 2泊分を支払っているお客様が、1泊でホテルを去ろうとしているのです。何かホテルの対応に問題があったのではないだろうか。あるいは、体調がすぐれないのではないか。1泊の予約と勘違いされてはいないだろうか。いろんな疑問を持ちながら、「2泊でご予約は伺っておりましたが・・・」というような、問い掛けがあってもよかったのではと思いました。それから1カ月過ぎましたが、今日まで連絡はありませんでした。

 出張当日に航空会社の欠航に伴い、他社便を利用することになりました。自分で取った予約なので、航空機の事前割引料金と他社の当日予約料金の差額は、後日返金することになっていました。

 後日、手続きに必要な書類の案内メールが届きましたが、うっかりそれを削除してしまったのです。別日に空港カウンターでその旨を伝えましたが、カウンターの端末機械にはその情報が入っていなかったようです。出発までの時間もなかったので、また改めようと、「では結構です」とカウンターを離れました。

 カウンターでは、お客様と日常によくある会話の1つだったと思いますが、このカウンタースタッフにとっては、その場で解決した会話ではなかったのです。その日のうちにお客様センターから、「せっかく声を掛けて下さったのに対応できず本当に申し訳ありませんでした」とメールが入り、返金手続きの方法が書かれていました。

 後日、搭乗便のチェックインカウンターで返金してもらったのですが、その搭乗便のCAからが「過日は欠航でご迷惑をおかけしました」と言葉をかけられ、驚いてしまいました。

 ホテルと航空会社にとって私は、顧客という程の利用はありません。しかし、この2つの事例にこそ、今のサービス業界の大きな問題点があると思うのです。決められた行動をより上手くこなす事が日々の目的になってしまっている。

 マナーは教えられても、その行動の「真の目的」を正しく伝えられる人が不足しているのです。



第87回:平成30年4月1日掲載

感じる力をアウトプットへ

~気づく人と気づかない人~

 「良いサービスを受ける力のない人に、良いサービスは提供できない」と講演で言い続け、「朝起きてから何回、ありがとうございますと言いましたか」とよく質問します。その回数が「感じる力」の差なのです。

 例えば、等しく良いサービスを受けても、それに気づく人と気づかない人がいます。サービス提供者は、まず良いサービスを感じる力を付けなければなりません。感じる力が受けるサービスの数でもあるのです。

 航空会社CAの研修で、事前にいくつかのホテル、レストランでのサービスを体験するよう課題を与えました。通常の研修と比べて若干コストはかかりましたが、その成果は非常に大きなものになりました。

 はじめの研修レポートには、それぞれの感動体験に、「ここが悪い」といったことも多く書かれていたのですが、体験を積み重ねていくうちに、よい体験の話しか出てこなくなりました。「聞いてください。こんな体験をしたのです」と、人に話したくなるようなサービスを受ける力が身に付いてきたのです。

 そのCAたちと先日、リッツカールトン東京のアジュール45で食事をしました。担当テーブルスタッフのあいさつが終わり、一皿目のお皿が配られようとしたときです。「○○さん、ありがとうございます」とCAたちが、テーブルスタッフに声を掛けているのです。

 体験のなかで、名前を呼ばれることの嬉しさを感じ、今度はそのうれしさをリッツのスタッフに実行しているのです。当然のように、そのスタッフはどんどん笑顔になり、サービスも良くなっているように感じました。それがさらに良いサービス体験となることをCAたちは気がついたのです。

 翌日には、どんなサービスが印象に残ったか話し合いました。インプットした多くのすばらしい事例がどんどんと出てきました。今度は、それらをどのようにしてアウトプットして仕事に活かすかです。あるCAは、おもてなしのひとつの「名前を呼ぶ」という行動には、あまり重要性を感じなかったが、レストランやホテルで実際に名前を呼ばれてみると、素直にうれしかったので、搭乗時にお客様のお名前を呼びたいという意見でした。

 ただ、「搭乗のお客様の名前は、よく利用する方以外はあまり覚えていない」という問題がありました。しかし、実行したいという強い想いが、その方法を見つけ出したのです。それが「搭乗時に席の案内をしたときに、搭乗券を見せてもらえるようにしよう」。そして「搭乗券に記載された名前をお呼びしよう」というアイディアでした。感じる力の強さは、新しいサービスを生み出す力となったのです。



第86回:平成30年3月1日掲載

楽しみながらお客様に感動を

~ワゴンの上に、ミニカーが1つ~

 クライアント企業との打ち合わせが終わったとき、いつもは、企業経営者を駅まで送り別れるのですが、その日は東京泊りということで、良い機会だと食事に誘いました。

 おもてなしの実行で創客に一生懸命に取り組んでいる経営者ですので、カシータ青山本店にはご一緒したことはありますが、今回は会議をした新橋に近い、昨年オープンの銀座店に連絡を入れました。

 「これから行っても大丈夫ですか」。「もちろんです。お待ちしております」。という短い連絡だけで、10分後に店に到着しました。食事の途中で企業経営者を店長に紹介しました。楽しい食事が終わってから、「西川さん、そろそろデザートになさいますか」とスタッフが声をかけてきました。

 満腹であっても、私が必ずデザートを取ることをカシータスタッフは知っています。私は「もちろん」と応えました。

 運ばれて来たデザートワゴンを見た瞬間、みんなが感動の声を上げたのです。ショートケーキが5種類ほど置かれたワゴンの上に、ミニカーがひとつあったのです。

 しかもそのミニカーには、バス会社であるクライアント企業の車両デザインがされていたのです。

 さらに、経営者が興奮していたのは、そのミニカーの車種までが同じだったことです。たまたま、持っていたミニカーに、サインペンでデザインしただけでもすごいことですが、飲食店にふつうミニカーは、なかなか置いていません。店内ディスプレイも、店の雰囲気とは違いますので、置いていたとは考えられません。

 これがカシータマジックなのです。あるはずのないものが用意され、最幸の瞬間に突然さりげなく目の前に置かれる。忘れられない感動を創り続けるカシータの真骨頂に、久しぶりに心が踊りました。

 「どうしたのですか、このミニカーは」と尋ねました。はじめは、ニコニコ笑っているだけだったスタッフにしつこく聞いてみると、「近くにおもちゃ屋があることを思い出したので、ひとっ走り行ってきました」と教えてくれました。

 お客様に忘れられない感動を創造する。そのためには、面倒くさい手間も惜しまない。それがお客様に感動を与え続けるカシータのすごさなのです。

 しかし、忘れてはならないのが、そのためにスタッフが苦しい思いをしてはいけないということです。同じ行動であってもそこに遊び心がなければなりません。

「お客様の驚く顔が、私たちの元気の源」と言い切るカシータには、お客様の驚かれるようすを柱の影で眺めながら、ガッツポーズをしてお客様と同様に感動しているスタッフがいるのです。



第85回:平成30年2月1日掲載

真のおもてなしで効率的な創客を

~ロイヤルリピーターを創造する~

 東京オリンピック・パラリンピック誘致の際、滝川クリステルさんが日本はおもてなしの国であると、世界に向けて発信しました。それ以前からメディアでは、日本社会はサービスが過剰だといわれていました。

 私たちはサービス、おもてなしを提供する側であると同時に、いち消費者でもあります。消費者として、日々受けているサービスに、あなたは満足はしていますか。

 私は、逆にサービスが低下しているのではないかと強い危機感を持っています。

 あなたが、あるいは信頼するスタッフが、お客様に最幸のサービスを提供できたとします。喜んだお客様が満面の笑顔でこうおっしゃいました。「非常に満足しました。機会があれば、また来ますね」。

 こんなに嬉しいことはありませんが、本当にこれで良いのでしょうか。私もクライアント企業のお客様から、同様の声を聞いたりします。

 そのときは「このお客様の言葉に違和感を持ちませんか」と尋ねます。

 気になるのは「機会があれば」というセンテンスです。お客様にとって、もしその機会がなければ、今日の仕事は未来を創り出さないということです。

 おもてなしとは、ただ単に今日のお客様の満足を創り出すだけの行動であってはならないのです。ロイヤルリピーターという造語を、多くの機会で語っています。その意味は、売りたい商品を、売りたいときに、販売者の能動的な働きかけによって、喜んで買っていただけるお客様と定義づけしました。

 ビジネスとは、いつか機会があれば来てくださるお客様ではなく、このロイヤルリピーターと呼ばれるお客様を日々の営業活動で創り続けることをいいます。そのために必要なことが、真のおもてなし行動なのです。

 苦情が来たら、深く考えることなく、その対象となる行動を無くしていく。そして出来上がった特徴のないサービスは、どこにでもある違いのないサービスです。

 そんなサービスを積み重ね、過剰だと言われるものを提供しても、満足は創造できても、次も必ずここに来たいと感じてもらうサービスにはならないのです。

 効率的に仕事をすることは、とても大切なことです。しかし、仕事の目的を考えたとき、手間を惜しまずに一見非効率に見える行動を取ることにより、帰り際に次の予約を入れてもらえることが真の効率的なビジネスといえるのではないでしょうか。

 そして、その一人ひとりのお客様に手間をかけることがロイヤルリピーターを創造する、最も効率的にビジネスの目的を達成できる真のおもてなし行動なのです。



第84回:平成30年1月1日掲載

本気で人を育てる想いがあれば、おもてなし行動は創造できる

~決められたルールの中でも~

 長い出張の疲れが出て、飛行機内ではずっと寝ていました。大阪空港に到着したときに、「今日はこのままタクシーで自宅に帰ろう」と決めました。タクシー乗り場に向かうと、私の行き先の乗り場には、長い行列ができていました。近距離の別のエリアへ向かう乗り場では、タクシーがずっと停まったままです。

 寒い中、長く待ったあとにようやく私の順番が来ました。車に乗り込みしばらく目を閉じて休んだあと、ふと外の風景に目をやったときに気づきました。大手のタクシー会社ではありますが、窓ガラスにはクレジットカード使用不可のステッカーが貼られていました。近距離といっても30分近くは乗ります。出張中に現金をかなり使っていたのでちょっと心配になってしまいました。

 座席に持ち込んでいたキャリーバックを開けて財布を探しながら思ったのです。サービスを提供する企業側のルールで、そこに空車が止まっているのに寒い中で長時間待たなければならない仕組み。大阪空港は市内の北のはずれにあり、市内中心部までは小一時間掛かります。その空港でお客様を待つタクシーが、クレジットカードの使用ができないとは、本当に驚きです。

 ところが、乗ったタクシードライバーには感動させられました。高級ホテルですら体験できないような、おもてなし行動に出逢ったのです。料金を支払い降りる準備をしていると、ドライバーが外に出て後部座席の右のドアが開けたのです。そして「お荷物、こちらから降ろしておきますね」と周り込んで、キャリーバッグをおろしたあとに、誰もいなくなった客席に腰をかがめて忘れ物、落し物がないかを確認しているのです。

 ふつう、ドライバーがお客様に喜んでもらえるような行動を取りたいと強く願っても、業界や企業のルールがその実行を阻み、それに直面した多くのドライバーは、そこであきらめて挫け、いつしかお客様への想いも薄れてしまいがちです。

 しかし、このドライバーは負けていません。決められたルールの中でも、自分にできることでお客様を笑顔にする。その強い意志を感じて感動してしまいました。別れたあと、どうしてもその想いを伝えたくて、その会社にお礼の連絡を入れました。「うちのタクシーでしたか。書かれている車両番号を教えてもらえますか。わざわざありがとうございました」。しかし、ドライバーがどんな行動をして、わざわざ電話でお礼を言って来たのかは聞かれませんでした。残念です。

 企業は何に対してドライバーを褒め、他のドライバーに伝えるのでしょうか。おもてなし行動は、企業の姿勢が変わればたくさん創り出せるのです。



~おもてなし講演の中でも、これらの体験事例が登場します~

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