コラム「もてなし上手」バックナンバー

<2011(平成23年)連載分>


第11回:平成23年12月1日掲載

その一言が価値を創る~一言でファンとなる~

 桜の名所として知られている秋田県角館を数年前に訪ねました。見事な桜を堪能した後、お邪魔した一軒の武家屋敷のご主人から受けた言葉を、今でも忘れる事ができません。それは「ようこそ、角館に。桜の角館はいかがでしたか。次は是非、季節を変えてお越しください。冬の角館も素晴らしいですよ」という言葉でした。

 その後、冬の角館についてネットで調べましたが、情報らしきものは確認できませんでしたが、ずっと冬の角館がどんな風景だろうかと思い描く憧れの場所になったのです。そして5年後、念願の冬の角館を訪れ、春とはまったく違う落ち着いた景色を目にした時に、これだったのかと納得したものです。

 同じように、冬に山形県の赤湯温泉に宿泊した翌日のことです。駅まで乗ったタクシーのドライバーが、「お客さんはどちらからいらしたのですか?ようこそ山形へ…この右手の山は今何もないですが、春になって桜が満開になると、素晴らしいですよ」。まるで観光大使のようでした。

 しかし、この2つの体験で感じたのは、地元の方の一言がいかに力を持っているかということです。単に「またお越しくださいね」ではなく、いつ、何を観に来てもらいたいかを具体的に伝えることが、風景をイメージしてもらうために大切なのです。

 さらに強く感じたのが、毎月クライアント企業に伺う前に昼食で立ち寄る松本のそば屋さんでのことです。その日は電車の中が寒く、松本に着いた時、真っ先に温かいそばを食べようと思いました。オーダーする前に、「出汁は関東風ですか、関西風ですか」尋ねてみました。関西出身の私は関東風の出汁がちょっと苦手で、そのわけを話すと「関東風ですが薄目に作りましょうか」と提案いただきました。ただ、そこまで無理を言ってはと思い、結局いつもの盛りそばをお願いしたのです。しかし、食べ終わって、レジで会計した時「出汁は辛くなかったでしょうか」と、別の店員さんから声を掛けられ驚いてしまいました。

 よく添乗員やバスガイドが立ち寄る観光地で、おすすめのお土産を案内したりしています。再集合してもらいバスが出発する時に、そのおすすめしたものに関して話題にせずに次の案内をしたらお客様はどう思うでしょうか。お客様は「せっかく買ったのに」とガッカリされるでしょう。

 そうです。「またお越しください」だけではなく、「冬の角館はいかがでしたか」その一言が、やっぱり来て良かった!と思わせる一言なのです。その一言があれば、お客様は一気にその土地や企業のファンとなるのです。お客様にお土産となる一言。そして、それをフォローする一言こそがおもてなしの言葉なのです。



第10回:平成23年11月1日掲載

「答える」を『応える』でおもてなし~「心の声」に応える~

 「西川さん、名古屋にジャンボタクシーってあるのかな?」『もちろん、ありますよ』。かつて、私が上司との会話で犯したミスです。これがきっかけとなり、「答える」から『応える』という教育研修に力を入れるようになりました。

 ある喫茶店で「入口のたばこ自動販売機で1千円札は使えますか?」と聞いたところ、『お客様、大変申し訳ありません。あいにくあちらの自動販売機は使えないのです』。その言葉がどんなに丁寧であろうとこれでは駄目です。質問は自動販売機に1千円札が使えるかどうかでした。しかしそれよりも私はたばこがほしかったのです。その質問には応えられていません。

 ある暑い夏の日。初めて訪ねた町の駅近くのホテルにチェックインしたとき、フロントに張られたお城のポスターに目が留まりました。すぐに「あのお城は遠いのですか?」と聞くと『少し離れていますね。』と返答。「どのくらいかかりますか?」と再度聞くと『歩いて40分くらいです』。炎天下に片道40分はとても歩けそうにないので、「他に行く方法はないのですか?」とさらに問いかけると『駅からバスが出ていますが…』。

 このあと「バスだとどのくらいですか?」『10分掛からないくらいじゃないでしょうか?』「初めてなのでバスは難しくないですか?」『○○行きに乗って、○○で降りていただいたらすぐですよ』とのやり取りが続いた。フロントスタッフは笑顔で丁寧に一生懸命答えてくれたのですが、すべて「答える」であって、私の質問に応えていないのです。結果的にタクシーを使い、ワンメーターでお城に到着しました。

 質問に対して、事実だけ伝えることを「答える」と言います。それに対して「応える」とは、その質問の意図を理解して目的を達成出来るように伝えることを言います。冒頭の私と上司の会話でも、名古屋にジャンボタクシーがあるのは事実ですが、上司の意図はジャンボタクシーを使いたいということです。事実だけの伝達では目的を達成できません。

 宿泊予定のホテルに、電話で質問をしました。「近くでイタリアンの店を探しているのですが?」『あいにく、私どものホテルは朝食しかご提供しておりません。近くのレストランでしたらご紹介できますが、お車ですか?』。その後、少しやり取りした後に「お時間と人数がお決まりでしたら、私どもからご予約を入れておきましょうか?」という案内がありました。これが『応える』ということです。日々多くの質問をお客様からいただいているでしょう。その心の声に応えられていますか。おもてなしをするということは、質問の裏に隠された心の声に応えるということなのです。



第9回:平成23年10月1日掲載

無駄の積み重ねの中に感動が創造される~出逢うまで続ける~

 チェックアウトを済ませ、ホテル前に停まっていたタクシーに乗ろうか迷い、結局乗らずにそのまま歩きかけたときです。突然そのタクシーの運転席のドアが開き、ドライバーが笑顔で出て来ました。予約客と間違ったと思い「私じゃないですよ」と否定すると、「いいえ、特にどなたかをお持ちしていた訳ではありません。ご利用でしたらと思いまして」と予想外の返事でした。

 私はその返事の意外さと、わざわざ外まで出て来てくれた思いに加え、何よりその笑顔に惹かれてタクシーを利用することにしました。ドライバーはすぐに「お荷物をお預かりしましょう」と、持っていたキャリーバックを大事に受け取りました。

 そのとき、私は信じられない光景を目にしたのです。既にタクシーのトランクが開けられていたのです。ドライバーはホテルを出て来る私の姿を見かけたときから、その荷物を見て、トランクを開けておいたということです。乗るかどうかも分からない私のためにです。

 「結構です」と断られれば、運転席から出て来たことやトランクを開けておいたすべての行動が無駄に終わってしまう。そのドライバーは私が出て来るまで、何人もの人に同じように声を掛け、同じような行動を取ったことでしょう。その都度断られ続けたと考えられます。しかし、必要とする人に出逢えたときには、その行動は間違いなく「できるドライバーだ!」という感動を生むのです。感動とは、こうした無駄の積み重ねの中で創り出されるものなのです。

 友人を私の大好きなレストランカシータに招待したときのことです。先に到着していた私のところに、遅れて来た友人が一言。「ここはどういうお店?」と興奮していました。

 彼の話では、表参道を歩いていると「佐藤様ですか?」と声を掛けられたというのです。初めての来店で、彼の顔を知っているスタッフがいるはずもありません。本人は驚いてただ目を丸くするだけでした。

 では、その通行人が佐藤さんであるとなぜ分かったのか?その答えに、すぐにはたどり着けませんでした。カシータスタッフがやったことが、驚くべき行動だったからです。

 実は、カシータのスタッフは佐藤さんらしき通行人に「佐藤様ですか?」と声をかけ続けていたというのです。「違います」と冷たく言われても何人もの人に声をかけ続けたといいます。

 その目的はたった1つ。そのうちに出逢うであろう佐藤さんに、「なぜ私が分かったの?」と驚き、感動してもらうためです。誰もが面倒くさいと思う一見無駄な行動こそが実はお客様を感動させる。この行動を「おもてなし」というのです。



第8回:平成23年9月1日掲載

営業の言葉もおもてなし~一言の提案が利益に~

 「本日は私どもの都合で、少し広めのダブルのお部屋に変更させていただいておりますが、よろしいでしょうか?」。何度か宿泊しているホテルにチェックイン時に掛けられた言葉です。「私どもの都合で」はとても素敵な言葉に感じました。

 仕事でホテルに泊る機会が多いと、「今日はお部屋をグレードアップさせていただいております」といった言葉をよく聞きます。ただ、受けるサービス内容は同じでも、使う言葉の違いだけでドキッとするくらい、うれしさを感じるものなのです。空いている部屋があれば、お客様に喜んでもらい再来館してもらうために使う。その部屋を気に入ってもらえば、次はその部屋の予約をいただけるかもしれません。これは商品の試食やお試し販売と同じ販促方法です。

 別のホテルでは「西川様、いつもありがとうございます。お世話になっているお客様だけに今日は特別なプランをご案内しております。ご予約いただいておりますお部屋より広めのジュニアスウィートが本日空いております。通常は○○円の追加料金なのですが、今日は特別価格の○○円でご案内させていただくことが可能なのですが如何でしょうか?」。もちろん、その提案を受けました。すると、「良かった。西川様ならその価値をきっとご理解いただけると思っておりました」。チェックインが22時近くだったので、それ以降に売れるとは考えにくい部屋です。ただ、一言の提案がプラスの利益を生み出したのです。しかも、私にその選択を後悔させない一言も忘れていません。何も提案がなければ、予約をした部屋に滞在するだけでした。

 ハンバーガーショップでは、「ご一緒にお飲み物やポテトはいかがですか?」と聞いてきます。車に戻ってから、飲み物を買い忘れたことも良くあることです。言われたものをそのまま販売することは、機械にもできることです。人が関わる以上、プラスの売り上げ生み出す事を考えなければなりません。その提案はお客様を喜ばせるおもてなしにもつながることなのです。

 東京青山にカシータというレストランがあります。「先程の料理は少しスパイスが効いておりましたので、このお水はいかがですか?」と、コンビニでもよく見かける水を持って来て案内されました。当然、有料ですが、少し喉を潤したいと思い頼みました。その場で封を切られて注がれる水は、なんとグラスに落ちた時点で凍り始めるのです。それを目にした全員が、えっどうして!と驚くのです。実は店側がこのサプライズをお客様に見せたいがための一言だったのです。これこそがお客様を温かく迎えるおもてなしであり、それが大きな感動を生むのです。



第7回:平成23年8月1日掲載

当たり前のサービスを昇華させる~“想い”があればできる~

 「真実の瞬間」という言葉があります。お客様が企業のスタッフと出逢った最初の15秒間で、どんな企業であるのかを判断してしまうという、サービス提供者にとっては気の許せない大切な時間のことです。つまり、この瞬間にお客様の心を掴むことができれば、そこから始まるサービスをひいき目で見てもらえる。逆に、そこを失敗すると同じサービスを提供できていても、十分にその価値を感じていただけない。スタッフがアルバイトやパートであろうが関係ありません。

 先月、グランド・ハイアット・福岡で開かれた「全国旅館おかみの集い」(主催・全国旅館おかみの集い運営委員会、旅行新聞新社)に参加しました。そこで、これが一流の証というサービス力の高さを体験しました。博多駅から乗ったタクシーがグランドハイアットに到着し、そのドアが開かれたところで「いらっしゃいませ!西川様、お待ちしておりました」と、ドキッとしてしまうような言葉を掛けられたのです。

 ドアに手が添えられ、笑顔を見せたホテルスタッフが「お荷物をどうぞ!」と声を掛けて来ました。客席に持ちこんでいたキャリーバッグを受け取り、タクシーから降りた私への第一声がそれでした。

 ホテルは以前に何度か利用したことはありますが、ここ1年くらいは泊っていません。どうして私の名前が分かったのでしょう。フル回転でその答えを探しました。そして直ぐに答えは見つかりました。簡単なことです。私のキャリーバッグには、小さなネームプレートが付いています。それを受け取ったとき、スタッフが瞬間的に観て確認をし、何気なく声を掛けたのです。

 この当たり前のことを、まるで1年ぶりに訪れた私の顔を覚えていたかのように、感動させるテクニックに磨き込む。もうビックリでした。

 ただ、このサービスはグランドハイアットでなければできないことでしょうか?優れたドアマンでなければできないことでしょうか?私はどんなホテル・旅館だって、新人にだってできると思うのです。

 できないのは、やろうとしないから。そして、お客様に喜んでもらうことを、本気で考えていないからなのではないでしょうか。だから、取るべき行動が分からない。結局、お客様に感動してもらい、滞在を楽しんでもらいたいという強い想いを持っていれば、どのホテル・旅館でも、誰にでもできることはたくさんあるのです。

 それを見つけて、真剣に取り組み、それを感動レベルまで昇華させれば、リピーターを創造する宝の行動となるのです。



第6回:平成23年7月1日掲載

おもてなしの心は見送る時に試される~見送りで“再び迎える”~

 「送迎」という、当たり前のように使っている言葉に、あるとき疑問を持ちました。時間軸から言えば「お迎えをしてから見送り」です。それが逆になっている。「何故だろう」と考えました。「迎えることは大切である」。これは間違いない。しかし、これからビジネスがスタートするお迎え以上に、ビジネスが終わった後の対応がより大切であると先人は考え、この言葉にその想いを込めたのではないでしょうか。

 私の大好きなレストラン、東京・表参道にある「カシータ」に行った時に、それを明確にする感動の見送りを受けることになりました。店はビルの3階にあります。退店する時「楽しい時間をお過ごしいただけましたか?」。そんな言葉を掛けられながらエレベーターまで案内してくれます。そして、エレベーターが1階に着き、ビルの外に出た時に、その感動の瞬間が訪れたのです。

 たった今、3階で見送ってくれたスタッフがビルの外に立っていたのです。そのからくりは、エレベーターに見送ったスタッフが「もう一度お客様を見送りたい」と、すぐさま階段を駆け下りたのです。再び顔を合せて私はビックリ。スタッフは「その表情を観ることが楽しくて仕方がない」と言います。おそらく今日も、何度も何度もその階段を駆け下りていることでしょう。

 見送られて10メートルほど歩いて振り返ると、人通りの多い表参道に出た5、6人のスタッフが大きく手を振って見送ってくれているのです。100メートル近く歩いて振り返った時にも、コメ粒くらいに小さくなったスタッフがまだ手を振っていました。この見送りに感動しない人はいないでしょう。また必ずここに来たい、と感じる瞬間ではないでしょうか?

 大阪の堺にある江久庵でも、同様の見送りを受けました。先に車に乗り込み、商品を買って戻る家内を待っていた時です。店の外まで見送られ、商品を受け取っている姿をバックミラーで確認し、車のエンジンを掛けたとき、私の存在に気づいたスタッフが10メートルほど離れた車まで駆け寄って「またお越しください。今日はご来店ありがとうございました」とあいさつしたのです。しばらく走って、ミラーを観ると手を振るスタッフがまだそこにいました。「よく観ておけ。人を見送るとはこういうことだぞ」。感動した私は、まだ幼い息子にも熱く語っていました。

 この体験から思うのは、「送迎」とは時間軸でも正しいということです。つまり、見送ったお客様を再び迎える、リピーターをつくり続けることが商いの基本なのです。次も必ず来て下さい。その想いを行動に移した行為こそが、見送りというものなのです。ここにおもてなしの基本があるのです。



第5回:平成23年6月1日掲載

その電話の対応はそれで完璧ですか~お客様の状況で説明~

 「そちらに向かっているのですが、場所が分からなくて…」。お客様からよくある電話ですが、企業としてその対応は考えていますか?一般的には、近くのランドマークとなる建物や場所から案内します。「○○から東の方向に…」とか「○○の交差点を○○側に…」といった感じでしょうか。

 ところが、京都のある老舗和菓子屋で私は驚くような案内を受けたのです。今までの対応との大きな違いは、店側が私と同じ立ち位置で質問をしてきたところです。はじめの質問は「お客様は京都の方ですか?京都に詳しいですか?」でした。この回答によって、その後の説明は大きく変わってきます。京都の住人や京都に詳しい人であれば「○○を2筋上がった○○の隣です」と言えばすぐに理解できるでしょう。次の質問は「今どちらにいらっしゃいますか?そこからの交通手段は?」でした。この回答次第では道案内の仕方も変わって来ます。

 何気なく応えている道案内の多くは、自分達を中心にしたもので、お客様の状況や環境に合わせて説明するという配慮に欠けているのです。電話口のお客様は、長い説明をイライラしながら聞いて下さっているのかもしれません。あるいは、結局よく分からず、とりあえず動こうと思っているかもしれません。お客様があきらめず、来店してもらえれば良いのではなく、店に到着するまでにも、わくわく感を持ってお越しいただけるような環境づくりが、来店時の売り上げを大きく左右するのです。 旅館・ホテルに関しても同じです。高い期待感を持って到着されるか、それとも失望の念を持って到着されるか。旅館のサービスは同じであっても、受け取る気持ちの違いが満足度を大きく変えるのです。

 都会のホテルでは、地下鉄の駅からホテルまでの道を実際に歩いたことのない人の案内では、非常に分かりづらいものです。例えば、「コンビニの角を左に曲がって下さい」と教えられても、そのコンビニが私の地点からは見えない。「ビルの上にある○○の看板を目指して来て下さい」と言われても、すでにその看板は別のものに変わっていることもあります。

 店やホテルに来店してもらうことの大切さを現場に強く認識してもらうことは、お客様への意識を変え、対応そのものを変えることにもつながります。何気なく応えて済ませていることを、第3者が理解できるのかをチェックして、より良い説明方法をスタッフ間で共有化することは、未だ見ぬお客様の期待感とその後の満足度を上げる最高の戦略ともいえるのです。



第4回:平成23年5月1日掲載

言葉の持つ力でおもてなし~負の言葉は使わない~

 青森県にある白神山地に行った時のことです。「ブナの青葉が目に眩しく、新鮮な空気がとても美味しい」などと思いながら山道を登っていると、互いに道を譲らなければならないような狭い道が何ヵ所かありました。そのとき、下って来る人が交差する私に道を空けてくれるので、その度に私は「すみません」と感謝をしながら歩いていました。そのうち、道を譲ってもらう度に「すみません」「すみません」と声をかけながら、下を向いて歩く私自身に気づいたのです。

 こんなに素晴らしい風景の中で、なぜか下を向いて歩いているのです。これではいけないと思い、言葉を「ありがとう」に変えてみました。笑顔で「ありがとう」と言いながら歩いていると、いつの間にか上を向いて、景色を楽しみながら歩けるようになったのです。「すみません」が「ありがとう」に変わる。それだけで、こんなにも気持ちが違う。私は言葉の持つ力を改めて知ったのです。

 先日、リッツカールトン東京に泊った時です。客室係りから「いつも同じ風景で申し訳ありません。ただ、今日は少し上のフロアですので、また違った風景を楽しんでいただけますよ」と案内されました。この言葉によって、そこにある風景の価値がどれほど高いものになったかは、読者にも想像していただけると思います。

 そのときに、少しいたずら心で「たまには東京タワーを観てみたいですね」と返したところ、即座に「では、部屋が空いているかどうかすぐに確認してみます」。客室の電話を使ってフロントにつないでしばらくすると、「西川様、東京タワーの見える部屋への変更ができます」と笑顔で伝えてくれました。「ただ、1万円ほど料金が上がりますがいかがしましょう?」。あまりにスピーディで、一生懸命の対応に、私も思わず「お願いします」と答えたのです。

 考えてみれば、追加料金という1万円もあれば、安いホテルであれば1泊出来ます。客室係がルームキーの変更に行っている間、新しい客室に案内してもらう間、私の中にはずっと「お願いします」と言ってしまったことへの後悔がありました。しかし、案内された客室に入った瞬間、「西川様、見て下さい。東京タワーがあんなにきれいに見えていますよ」と大声ではしゃぐ客室係の姿に、先程私が下した判断は正しかったと思えたのです。言葉だけで1万円の価値をそのスタッフは創り出したのです。

 皆さんも「言葉が持つ力」を信じ、それを上手く操れるようにトレーニングして下さい。コツは、マイナスの言葉を使わない。仮に雨が降っても、「緑が洗われて木々が輝いていますね」と表現することで、その事実をプラスにすることもできるのです。



第3回:平成23年4月1日掲載

お客様の声を財産に変えることでおもてなし力を向上させる

~クレームを味方に~

 「クレーム」は、今もそこココで生まれているのです。「クレーム」という言葉は、販売者にとってあまり心地よい響きではありません。ただ、企業内にその意識が強すぎると、社内でそれを隠そうとする風潮が生まれてしまいます。もはやそこにお客様はいません。あるのは、如何に上司の叱責から逃れるかという自己防衛だけです。これ程怖い現象はありませんが、多くの企業が内部にその問題を抱えています。

  ある年、実家へ帰省土産として和菓子を買いました。正月にその和菓子を食べようと、買い物袋を団欒の場に持ち込み、幾つかの土産品の中から正月用に買ったものを探したのですが、その土産だけが見つかりません。買ったつもりが、実は買っていなかったのではないかとレシートを確認すると、購入の記録は残っていました。

  正月に営業しているだろうかと思いながら、購入した店に電話を掛けてみました。すると「おめでとうございます」。受話器の向こう側から、明るい声が返ってきました。笑顔で迎えられたように錯覚する応対でした。「帰省土産として買ったものが…」と事情を話すと、すぐに「今からお持ちいたします」という返事。その応対に本当にビックリしてしまいました。

  どこに帰省しているかも伝えていません。にも関わらず「すぐに持って来る」とは。実家は店から高速を使っても約1時間半です。それを伝えると「近いです」。またまたビックリでした。さらに、驚いたことは、私が掛けた電話の相手は、ここまで一度も電話を保留にしていないのです。つまり、誰に相談することなくその場で自らが判断している。ここにこの企業のお客様の心を掴むポイントがあるとみました。

  誰の失敗か、犯人捜しなどお客様には関係のないこと。「相談します」と、保留でもしようものなら、お客様の怒りはさらに増幅されます。即時判断、即時行動。その手際のよさがクレームになったかもしれない出来事を感動へと変えたのです。

  大切なことは、スタッフ一人ひとりが現場でお客様と向き合う時に、その場その場で最良の判断が出来る物差しを企業として持つことなのです。そのためには、日頃からお客様の声を宝物と考える社内環境を作り上げ、我が社の対応の仕方を日ごろから話し合っておくことが重要なのです。

  たとえその場で取った行動が適切でなかったとしても、行動を起こさなかったことを責められても、行動そのものが叱責されるのではありません。要は次につながるより良い行動は何かを話しあうことです。それが、クレームを味方につけるおもてなしの行動を生み出すのです。



第2回:平成23年3月1日掲載

お客様の持つ事前期待を超えることで感動・感激を創出する~事前期待を超える対応~

 それは突然やって来た衝撃でした。先日、コンビニで弁当を買ってレンジで温めてもらいました。しばらくして弁当を取り出した店員が、その弁当を手に「申し訳ありません。もう少し温めますね」と、再びレンジに戻した途端、ボンッと破裂音がしました。今度は、温めすぎです。一見、おかずが上蓋に張り付いただけのようでした。店員が申し訳なさそうに「取り替えますね」と言いましたが、私は「それで構いませんよ」と受け取り、事務所に戻りました。

  ところが、いざ食べようとして、弁当のビニールを剥がそうとすると、そこにおかずがくっ付いていました。上蓋の小さな穴から外に飛び出たようなのです。さすがにそれは食べることが出来ません。仕方がないとあきらめかけたのですが、ポケットから店の電話番号が書いてあるレシートが出てきました。そこで、他のお客様に同様の失敗があってはいけないと思い、勇気を出して電話をすることにしました。

  この時、購買者が起こす行動の裏には必ず「事前期待」というものがあります。つまり、起こした行動に対して、販売者がどの様に応えてくれるかについて無意識に意識しているということです。私の事前期待とは「お持ちいただければ新しいものに交換する」、あるいは「次回来店時に返金をする」というものです。

  この期待通りであれば、購買者は満足しますし、まあまあの対応です。この期待をほんの少しでも上まわる事が出来れば、満足は感動へと変わります。そして、大きく超えると感激となるのです。 ただ満足では、次の購買時に他社を含めた選択肢として残っただけに過ぎません。満足すら出来なかった企業、店については「もう次はない」という厳しい結果を消費者から突き付けられるのです。今や消費者は多くの商品を手にして「選択権」という最大の武器を持っているのです。これにどう立ち向かうかが求められる時代なのです。

  そして、次に使っても良い企業、店レベルから、「次もここで」という明確な意識の元に再購買してもらうために必要なことが、満足を超える感動、感激を創り出すことなのです。

  結果を申し上げるならば、このコンビニの対応に私は感激してしまいました。その答えは、「今から、新しいものをお持ちします」だったのです。百貨店でも、専門店でもありません。私の事前期待を遥かに超える対応に、「参りました。」と、電話口で言ってしまったくらいです。



第1回:平成23年2月1日掲載

当たり前を当たり前と考えないところに感動が生まれる

~心地よい出逢いの瞬間~

 出張で泊まった朝、ホテルの前に立つ都庁を眺めていると、カラスが何度も上空まで飛んでは、降りてくる不思議な行動に目を奪われました。飛び上がる高さが常に一定なのです。一定以上の高さを飛ぶと、風の影響を受けたり、外敵に狙われる危険性があるのかと思いましたが、その高さ以上を飛ぶカラスを観たこともあります。恐らくそのカラスにとって、それ以上高く飛ぶ必要がないのです。その高さで十分な餌を見つけられるのでしょう。私はあと1メートル高く飛べばもっと素晴らしい餌場を見つけられる。まったく別の世界がそこに見える。迫ってくる危険を察知することもできると、勝手にカラスの立場に思いを寄せたものです。ただ、カラスの行動は変わることなく同じことが繰り返されました。

 振り返って、私たちの仕事も同じではないでしょうか。上手くできるようになったと、その繰り返しの業務に満足していないだろうか。それが最高にお客様に喜んでもらえると思い込んでいないだろうか。思い切って、これまでの当たり前を捨てて、新しい価値をつくりだす努力を忘れていないだろうか。変化を恐れずに、変化を楽しむことができたら、新しいより良い餌場が見つかるかもしれません。その勇気が、私たちには必要な時代なのです。

  お客様を迎える時に、当たり前のように「いらっしゃいませ!」とだけ言っていないでしょうか。その時にお客様は、何とお応えになられますか。おそらく返事はいただけていないのではないでしょうか。当然です。「いらっしゃいませ」の対になる日本語はありません。「いらっしゃいませ。おはようございます。」その時はじめて、「おはようございます。」とお客様からお言葉をいただけるのです。これがコミュニケーションのできた瞬間であり、お客様にとっての心地よい出逢いなのです。ここから、感動を創っていく本来の仕事がスタートするのです。はじめが肝心です。ここを失敗してしまうと、リカバリーには2倍3倍の力が必要となります。ある方の出張時の話を聞いて、ぞっとしたことを今でも鮮明に覚えています。その方は、以前その航空会社に乗った時に、そこはサービスの悪い会社という印象を持ってしまったのです。帰国後の話では、「乗ってから降りるまで終始、いつかボロを出すぞ」という想いでサービスをずっと観ていたというものでした。入口で失敗してしまうと、同じことをしていても、まったく違う視線を送られるものなのです。先ずは、出逢いの瞬間に、お客様の心の扉を開けましょう。小さな行動の変化を恐れることなく、あるいは良いと思う行動をめんどくさいなどと思わずに、実行に移すことから、今日の業務を変えてみましょう。その成果に大きな違いが生まれるはずです。



~おもてなし講演の中でも、これらの体験事例が登場します~

バックナンバーはこちらから


>>>講演の特徴 >>>講師実績 >>>メディア実績 >>>聴講者ご感想 >>>講師紹介 >>>コラムもてなし上手 >>>お問合せ